精神作用物質使用による精神病および行動の障害

INDEX

T.アルコール依存症

  1.アルコール精神病
  2.治療
  
U.麻薬中毒

V.覚醒剤(ヒロポン)中毒

W.シンナー中毒(有機溶媒乱用)

X.睡眠薬・鎮痛薬・抗不安薬の乱用

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精神作用物質使用による精神病および行動の障害   

 アルコールや精神作用物質の投与によって起こる精神障害
を中毒性精神障害とよんでいたが、ICD-10では、左記のよう
な名称で分類された。

 

T.アルコール依存症

 アルコールに対する精神依存と身体依存が認められる状態をアルコール依存症とよんでい
る。
 精神依存は、強迫的飲酒欲求があって、飲まないといらいらして落ち着かず、飲酒抑制が
できずにしばしば朝から飲み、何日も飲み続ける(連続飲酒)。結果として、家庭生活や職
業生活は破綻してしまう。
 身体依存の形式は、離脱症状によって確認できる。アルコールがきれると、精神症状(不
安・不眠・不安)、神経症状(手指や体幹の振戦)、身体症状(突発的発汗・悪寒戦慄・頻
脈などの自律神経症状)がみられ、重症の場合には、けいれん発作・せん妄・幻覚症状が出
現することがある。
 多くの場合、アルコール性臓器障害を併発しており、肝障害・高血圧・胃潰瘍・膵炎・糖
尿病・末梢神経炎などがみられる。
 アルコール依存症の頻度は、その国や地方の社会・文化・経済状態によって異なる。日本
では、アルコール消費量は年々増加し、若年層と女性に依存症が増えてきている。現在、ア
ルコール依存症ないしそれに近いと推定される問題飲酒者は 250万人に達すると考えられて
いる。

1.アルコール精神病
  

A. 振戦せん妄
   アルコール精神病のうちで、最も多く見られる。
   定型的な症状は、最終飲酒から2〜3日してから
   急にせん妄状態が出現し、意識混濁、精神運動興
   奮、幻覚、上下肢の粗大で不規則な振戦、発熱が
   現れた後、深い睡眠に移行して終わる。
   幻視(虫や小動物)や職業せん妄(仕事をしてい
   る言動)がみられることが多い。経過中、心臓衰
   弱や肺炎などの合併症で死亡することもある。3
   〜5日で回復するが、後にコルサコフ精神病を残
   すことがある。
B. アルコール幻覚症
   幻聴を主症状とし、意識混濁は通常ない。被害的
   内容の幻聴とそれに支配された逃避・自殺・攻撃
   などが認められる。急に発症し、多くは断酒によ
   り数日内に治癒するが、長く続く場合もある。
C. コルサコフ精神病
   振戦せん妄とともに始まることが多く、せん妄が
   消失するにつれて症状が現れてくる。
   コルサコフ症状(記銘力障害・失見当・作話)と
   多発性神経炎を合併し、予後は必ずしもよくない。
D. アルコール性嫉妬妄想
   特に夫が妻に対して嫉妬妄想をいだく状態である
   が、アルコール依存症が軽快すれば消失する。
E. アルコール性痴呆
   アルコールの過剰反復摂取により脳に器質的な変
   化が生じるためと考えられる痴呆で、脳萎縮が認
   められることもある。

2.治療

 急性期の治療は、主としてアルコールによる身体的障
害及び離脱状態(振戦せん妄など)などにむけられ、身
体的諸検査を実施して対症治療を行い、ときには精神安
定剤などの投与を一定期間行うこともある。断酒が基本
となるが、自分の意志で断酒するようにもっていくには、
精神療法が重要である。個人精神療法のほかに、家族療
法も含めた集団精神療法も適用される。依存症の人が断
酒を続けていくためには、アフターケアとして自助グル
ープ活動(断酒会やA.A.:匿名禁酒会活動)への参加
が大きな意味がある。行動療法としては、嫌悪療法があ
る。薬物を用いての治療には、抗酒薬(アンタビュース・
シアナマイド)による嫌酒療法がある。抗酒薬を服用し
て飲酒すると、不快症状で苦しむので、節酒から断酒へ
とむかわせることができる。しかしときにショック症状
が出現し、生命の危機もある。振戦せん妄やアルコール
が幻覚症には向精神薬の投与が有効であるが、経過をみ
て漸減していく。

 

U.麻薬中毒

      モルヒネ(アヘン・ヘロインも同様)、コカイン、大麻(マリファナ・
     ハシッシなども同様)などが麻薬大麻及び向精神薬取締法の対象である。
     わが国ではアメリカなどに比べて少ないが、モルヒネはターミナルケアな
     どで使用されているので、医療従事者の間での乱用にも注意すべきである。
      麻薬の乱用(違法行為)に始まり、これが習慣性となって耐性が生じ、
     離脱症状(禁断症状)が出現する。
      治療は、入院により薬物摂取の中止が必要であるが、他の薬物におきか
     えながら中断へもっていくなどの方法がとられる。
       

V.覚醒剤(ヒロポン)中毒

      わが国ではメタンフェタミンが使用されており、不定供給源は組織暴力
     団によるもので、社会的問題となっている。
      覚醒剤は、中枢神経刺激作用があり、精神的・身体的活動が増加し、気
     分はそう快となり、疲労感がなくなるが、耐性が急上昇し、使用量も増え
     る。覚醒剤中毒の症状は、精神分裂病の幻覚妄想状態に酷似しているが、
     患者は幻声におびえて、ときには反応的に他への攻撃行為に走ることもあ
     る。断薬により比較的すみやかに症状は改善する(10日以内)が、10%余
     りは長期間にわたり幻覚妄想状態が持続し、ときには人格障害が残ること
     もある。       

     フラッシュバック: 精神病状態が一度軽快または消失して数年間を経過
              した後に、1回の少量の覚醒剤の再注射で再発したり、
              飲酒や特異なストレスで再燃することがある。この逆
              耐性現象は、永続的な脳ドーパミン系の過感受性によ
              ると推定され、幻覚妄想状態の再発機序として注目さ
              れている。
               治療は、入院して薬物摂取をたち、対症的に抗精神
              病薬の投与をするが、人格障害や遷延持続型の幻覚妄
              想状態は難治性であり、社会的予後は全般に不良であ
              る。
  

Wシンナー中毒

      青少年の間で、シンナー・ボンド・トルエンなどの乱用がみられる。酩
     酊・夢幻様状態・幻覚状態などを求めてくり返し吸引が行われ、精神依存
     をはじめ社会的問題行動にはしることもある。

X睡眠薬・鎮痛薬・抗不安薬の乱用 

      医薬品として使用されているこれらの薬物のなかには、気分高揚・酩酊
     感・そう快感を引き起こすものが多い。耐性形成が起こりやすく、使用量
     は増大する。アルコールとの併用で、健忘症状を呈する睡眠薬もあり、社
     会問題となることもある。


表1 物質の分類に関連した診断(DSM-Wより引用)
 

   依存   乱用   中毒   離脱 
アルコール   ×   ×   ×   ×
アンフェタミン   ×   ×   ×   ×
カフェイン       ×  
大麻   ×   ×   ×  
コカイン   ×   ×   ×   ×
幻覚剤   ×   ×   ×  
吸入剤   ×   ×   ×  
ニコチン   ×       ×
アヘン類   ×   ×   ×   ×
フェンシクリジン   ×   ×   ×  
鎮静剤、催眠剤、
または抗不安薬
  ×   ×   ×   ×
多物質   ×      
その他   ×    ×   ×   ×

         × は、出現することを示している。
         フェンシクリジンは、海外の静脈麻酔剤である。

       依存:精神的、身体的にその物質が重大な障害をおこすと知ってい
          るにもかかわらず、物質使用を多量に続け、中止できないこ
          と。
       乱用:依存ほど精神的・身体的問題はおきていないが、物質を反復
          使用することにより社会的・法律的問題をおこすこと。
       中毒:物質を摂取する事で著明な不適応行動や心理的変化をおこす
          こと。
       離脱:大量・長期にわたっていた物質の使用を中止することにより
          身体的・精神的な症状が発現すること。

        表2 物質の分類に関連した物質誘発性障害(DSM-Wより引用)
                                     

 































アルコール I/W I/W I/W I/W
アンフェタミン       I/W I/W
カフェイン              
大麻            
コカイン       I/W I/W I/W
幻覚剤       I*    
吸入剤        
ニコチン                  
アヘン類         I/W
フェンシクリジン          
鎮静剤、催眠剤、
または抗不安剤
I/W I/W I/W
その他 I/W I/W I/W I/W

          * 幻覚剤持続性知覚障害(フラッシュバック)を含む。
          Iは、中毒中の発症。(中毒せん妄を除いて);Wは、
          離脱中の発症。(離脱せん妄を除いて);I/W は、中毒
          中の発症または離脱中の発症のどちらか。Pは、その疾
          患が持続性であることを示している。

           
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